次代への羅針盤
今こそ100年先を見据えた教育ビジョンの真剣な議論を!
村上正紀
グローバル時代には金太郎飴教育は通用しない
ドクターの試験でも、どういう理念でどんな新しいことに挑戦しようとしているのかというフィロソフィーを重んじます。企業では、新しいことにチャレンジして成功すれば、給与は大袈裟に言えば、倍々ゲームで増えていくのです。
私は1975年にIBMのワトソン研究所に転じました。それまで熱力学の研究をしていた私に対し与えられたテーマは、超伝導コンピューター素子の開発でした。私にとってまったくバックグラウンドのない領域でした。だから人一倍の勉強量が不可欠でした。米国では学生や若手研究者がそうして鍛えられていくのです。
翻って日本の教育では周囲と協調することが善とされています。社会が敷いたレールの上を、脱線しないように、そして他の人と衝突しないように走ることが大事だと、子どもの頃から教わります。大量生産・大量消費の時代なら、そんな金太郎飴教育でもよかったのかもしれません。けれども急速なグローバル化が進んでいる今、もはや金太郎飴では通用しません。もっと個々人の付加価値を高めるような教育をする必要があります。
教育は、国家100年の計です。100年先を見据えた教育のビジョンを真剣に議論しなければいけません。それも学者だけ、役人だけというのは無論のこと、日本人だけで話し合っても意味がありません。世界中の人と一緒に議論し合う場をつくるべきです。グローバルに人材を集め、三次元的に見ないと、地球上で置かれている日本の位置が分からないからです。日本の凋落を防ぐには時間がありません。少なくとも2020年の東京五輪・パラリンピックに向け、実現可能な多角的な策を編み出すように全力を尽くすべきです。もちろんそれには、企業も重要な役割を果たすことが求められます。企業の経営者の方々には、フィロソフィーを持ち、若者を牽引していただき、若者の目標となる背中になっていただきたいと強く思います。