One Hour Interview
多様な用途が期待できる木質系炭素材料を開発
水野潤
難問に挑戦してこその人生
木質材料以外にもいろいろな研究テーマをお持ちのようですね。
エレクトロニクス実装、有機EL関係や圧力センサーなどの研究もしています。圧力センサーはすでに商品化されています。社会にインパクトを与えそうな研究としては、ウイルスを画像化してとらえようという研究を他の大学の先生と一緒にやっています。生体組織にウイルスがどういう状態で付いているか分かれば、それに対応した医薬品がつくれる可能性もあります。
高校生の頃は歯科技工士になるつもりだったとか。
父が歯科技工士をしていたのですが、私が小学生のときに亡くなりました。それで家計のことを考え、高校を卒業したら歯科技工士になって母を助けようと思ったのです。でも、高校の先生から大学受験を勧められ、進路を変更しました。大学生のときは親からの仕送りが止まった時期もありましたが、家庭教師や塾講師、面白いところではオーディオづくりなどのアルバイトもしていました。周囲の方々の温かい応援があり、乗り切ることができました。
大学卒業後は一度就職されていますね。
外資系の企業に入りました。その後、転職した会社から、東北大学に派遣され、MEMS(微小な電気機械システム)研究の第一人者である江刺正喜先生にずいぶん鍛えていただきました。ここでナノ・マイクロ加工の知見を習得したことが、私にとっては大きな意味を持ちました。今の研究でもそこでの経験や知見がバックボーンになっています。
先生の研究室は、学生をあまり拘束しない方針を取られているとお聞きしました。
週に1回各自の研究報告会以外は拘束しないようにしています。研究テーマでもそうですが、学生と研究テーマについてよく話し合い、学生の考えを尊重しています。そうすれば自ずと学生が考えるようになってきます。興味のある学生には研究テーマの数を決めていません。3テーマ以上持っている学生もいますよ。
研究は難しいことがたくさんあります。学生には、「難しいのがないのは無難、難しいのが有るのは有難いと読みます。考えれば自ずと分かってきますよね」と言っています。難しいことを避けずに積極的に挑戦してこその人生ですよ。私にとって学生は非常に重要な戦友です。
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 教授 水野潤[みずの・じゅん]1960年、福島県出身。東北大学工学部卒業。工学博士。大学卒業後、外資系企業に就職。その後、別の外資系企業に転じたとき、その企業から東北大学に派遣され、ナノ・マイクロ加工技術を習得した。2002年ナノテクノロジー研究所(現在のナノ・ ライフ創新研究機構)が創設され研究者が公募されたときに応募。2014年4月から現職。2度目に入った企業で管理業務が多くなったときは、ストレスから体調が悪化。早稲田大学に転じたときは給料が大幅に下がったが、「生き生きと仕事をしていると妻は喜んでいました」という。九州大学の客員教授も務めている。
「第32回松籟科学技術振興財団研究助成受賞」
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