ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

今こそ学問領域を超えた知の融合が不可欠

東北大学の総長を務めていたとき、世界のリーディング・ユニバーシティを目指してさまざまな改革を推進した井上明久氏。 東日本大震災を経験したときには、巨大災害に備えた学際的な取り組みの必要性を提起し、わずか1年で災害科学国際研究所を立ち上げた。 現在は金属学を専門とする一研究者に戻り、海外の大学と連携しながらバルク金属ガラスなどについての研究に取り組んでいる。 豊富な経験を踏まえ、これからは複眼的な視野を持つ人材の育成が大事だと指摘し、知的好奇心や継続した挑戦姿勢などが重要だと語る。

Akihisa Inoue

井上明久

城西大学理事長特別顧問/松籟科学技術振興財団理事

東日本大震災で痛感した科学・技術の無力さ

 東日本大震災のときに私は当初、科学・技術の無力さを痛感しました。本来なら社会の役に立つべき大学の学問・研究が、地震や大津波、原子炉の溶融を未然に予知したり、防いだりできなかったからです。また震災時やそれ以降において、危機や困難に際しても揺らぐことなく、それを克服し解決するためにリーダーシップを発揮できる人材を輩出できてきたのかという疑問も持ちました。そして私は、科学・技術のあり方だけでなく、大学そのもののあり方も問い直したのです。

 そうした問題意識から東北大学では、2012年に災害科学国際研究所を設立しました。あのような巨大で複合的な災害に対処するには、人文・社会、理工、医学などすべての学問分野の研究者を糾合し、学問領域を超えた知の結集が必要だと考えたからです。人間の知恵の総体として取り組まなければならないと考えたのです。

 しかし、そのとき総長としての任期は残り1年しかありませんでした。したがって何としても1年間でやり遂げる必要がありました。学内の調整をし、学外に働きかけ、文部科学省に予算をお願いする。必死の思いで取り組み、何とか1年後に研究所を立ち上げることができました。

 2006年に東北大学の総長に就任すると、私は知の融合を積極的に進めて、複眼的視野を持った人材の育成を図っていくために、さまざまな改革を行いました。「井上プラン」と名付けられたこの改革は、東北大学を世界のリーディング・ユニバーシティにするのが目的でした。

次のページ: 複眼的な視野を持つ人材の育成を

1 2 3 4 5