次代への羅針盤
たとえ基礎的な研究でも出口を見据えた構想力を
有機ELの研究から有機トランジスタ、さらに
プリンテッド・エレクトロニクスの研究へとフィールドを広げてきた時任静士氏。「社会的なニーズに目を向けず、タコツボに入り込んだような研究はしたくない」
Shizuo Tokito
時任静士
山形大学
有機エレクトロニクス研究センター センター長
卓越研究教授
苦労覚悟で国際会議を招致
今年の9月6日から8日までの3日間、米沢市の山形大学工学部で「フレキシブル・プリンテッド・エレクトロニクス国際会議(ICFPE)」が開かれました。この国際会議には約400人を超える参加がありましたが、そのおよそ3分の1は海外から来た研究者でした。
実はこの会議を招致したのは私です。アジア地区で持ち回りで開いていて、今回は日本の順番でしたが、名乗りを上げる大学がなかなか現れませんでした。通常、この規模の国際会議は学会が主催するのですが、この会議は支援団体がないため全部自前でやらなければなりません。赤字になったときは、主催したものが被ることになります。ですから私も最初は二の足を踏んだのですが、日本が断ったら中国とか韓国で開かれることになってしまうでしょう。それでは日本の地位が低下しかねませんから、お引き受けすることにしたのです。
山形大学の工学部では、こうした国際会議の経験がなかったので、心配なことがたくさんありました。国内外から大勢の参加者が来られるのに、ホテルは足りるのか。米沢駅から大学までの交通手段はどうするのか。駅の案内所には英語のできる人がほとんどいないのに、海外から来た方を誰が案内するのか。一方では世界各国の大学や研究機関、企業などに連絡をし、論文を集め、冊子にして出版しなければいけません。私の研究室のスタッフは1年間、この会議に関わる仕事にかかりきりでした。本当に大変でした。
しかしそれでもやってよかったと思います。プリンテッド・エレクトロニクスのさまざまな研究者が最新の知見を発表し、学問的にも大きな成果が得られました。日本で開催したことで、企業も含めてこの分野における研究開発の機運も盛り上がったと思います。さまざまな面で協力してくれた学生にもいい経験になったはずです。