次代への羅針盤
新たなパラダイムを構築し、真理を実証して時代に問う
昆虫と植物に感染する微生物「ファイトプラズマ」研究の世界的第一人者。
厳しくも温かい視線で若手研究者に喝を入れる。
Shigetou Namba
難波成任
東京大学名誉教授東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授 総長特任補佐
分子生物学は目的ではない
私が長年研究してきた植物病理学は、植物が病を患う理(ことわり)を明らかにする学問です。東京大学は1906年、世界で初めて植物病理学研究室を創設しました。植物病理学は本来実学ですから、創設当時は臨床、教育者養成、研究の3部門がありました。ところがその後、東京高等農林学校(現東京農工大学)が臨床、東京師範学校(後の東京教育大学、現筑波大学)が教育者養成を担う学校として分家しました。そして現在はどこも基礎研究を行っています。
学問にも時流があります。私が留学した1990年当時、米国の年輩研究者の多くが「みんな分子生物学の時流に乗ってしまった」と嘆いていたものです。分子生物学は技術であって目的ではないはずなのですが、当時の生命科学研究者たちはそのことに気がつかなかったのです。
しかし私は臨床も大切にするべきと考え、臨床の勉強ができる場所を探し、東京大学農学部の農場でフィールドを中心に研究する助教授を3年務めました。このときは最先端の基礎研究能力を身に付けていないと、臨床に手を出しても役に立たないことを思い知らされました。そこで10年かけて植物病理学の基礎研究を世界最先端レベルまで究めようと努力しました。