次代への羅針盤
「知識」のみではいけない、「知恵」が大事
世界で初めて、一方巻きのらせん高分子の不斉合成に成功し、
化学に新しい可能性をもたらした岡本佳男氏。
研究歴50有余年を経てなお、研究への意欲は衰えない。
Yoshio Okamoto
岡本佳男
名古屋大学 特別教授、名誉教授
新しい化学を切り拓く
私は、数千の原子が結合して紐状になっている高分子の研究を行っています。高分子の特徴の1つに、形状があり、代表的な構造としては、らせん構造があります。らせんを巻いている高分子には右巻き、左巻きという方向性があり、通常、天然高分子はどちらかの方向に偏っています。たんぱく質、DNAは基本的に右巻きで、方向が偏るということは機能を発現するうえで非常に重要な要素です。
こうしたことがわかったのは1950年代のことでした。以降、人の手で合成する合成高分子でらせんの向きをどちらかに偏らせる試みが世界中で行われるようになったのです。しかし、ありきたりのモノマーなどを使っていては非常に難しく、誰も成功しませんでした。もう無理だと諦めてその研究をやめた研究者もいました。
けれども私たちは1979年、選択的にらせんの向きを決定できるらせん高分子の合成に世界で初めて成功しました。らせん構造を人工的につくることができれば新しい化学を展開できるはずと考え、諦めずに研究を続けてきた成果でした。