伝説のテクノロジー
吉田の火祭りを支える大松明づくり
山梨県富士吉田市で毎年8月26日と27日の2日間にわたって行われる吉田の火祭り。
26日の夜には70~80本の大松明(おおたいまつ)に火が灯され、祭りは最高潮に達する。
和光信雄さんは9歳のときからこの松明づくり(松明結(たいまつゆい))に参加し、
81歳になる今も松明づくりに取り組みながら、親方として職人たちを統率する。
だが松明づくりの職人は高齢化とともに、年々数が減っている。
このままでは吉田の火祭り自体が存続を危うくしかねない状況だ。
松明(たいまつ)職人 和光信雄さん
2人1組で1日に1本つくるのが限界
大松明は筍のような形をしていて、高さは約3メートル。御旅所(おたびしょ)に置かれる2本はさらに大きく約3.3メートルにも及ぶ。
中にはアカマツのマキがびっしりと詰め込まれている。アカマツを使うのは、松やにによって火力が強いうえに火が爆(は)ぜないからだ。
松明の中心には直径12センチほどの芯棒が入れられている。その芯棒を囲むように1本50センチほどのマキを縦に積み重ねていくのが大松明づくりの基本だ。松明は上部(頭)から下部(袴)にいくにしたがい、太くなっていく。一番下は直径1メートルほどになる。マキを詰め込んでいく作業は頭から始めて、徐々に下部へと進めていく。マキを囲むようにバタと呼ばれる薄い木の板を打ち込み、一番外側は経木(きょうぎ)(アカマツの薄い皮)で覆う。そしてその上を荒縄できつく締める。
はたで見ていると、簡単な作業のようにも思える。だが、マキを詰め込んでいく作業には熟達の技が必要だ。マキとマキの間に空間ができると、火が燃えにくくなるし、松明そのものがもろくなってしまう。もちろんマキは1本1本、形が違う。まっすぐなものもあれば曲がっているものもある。そうしたさまざまな形状のマキを隙間なくバランスよく詰め込んでいかなければならないのだ。
「2人1組になって朝8時から夕方の5時頃まで作業して、やっと1本できる。松明を立てたときの形を見れば、マキがうまく詰め込まれているかどうか、すぐ分かる」
松明づくりの現場では、ときにはベテランの職人に対しても厳しい叱声を飛ばす和光さんが、今は穏やかで朴訥(ぼくとつ)な口調で語る。