伝説のテクノロジー
木を診断し、守り、育て、愛情をそそぐ
日本で最初に女性樹木医になった塚本こなみさん。
木を慈しみ、木に語り掛け、木を育てることに全力を傾ける。とりわけ巨木や古木の移植では、達人として全国に広くその名を知られ、一方ではフラワーパークの経営再建人としての顔も持つ。これからは「園芸療法で木だけでなく人にも元気になって欲しい」と語る。
樹木医 塚本こなみさん
樹齢500年の五葉松の移植に挑む
「これはうちにはちょっと……」
集められた造園会社や植木会社の責任者十数人は、口々にそう言った。
高速道路の建設で用地を買収しようとしたところ、地主がひとつの条件を出した。対象となっている土地に生えている樹齢500年の五葉松を新しい土地に移植させることができるなら、土地を売ってもいい、と。そこで高速道路会社は地域の造園会社や植木会社を集めて、移植が可能かどうか打診したのだった。
だが、樹齢500年の五葉松となれば天然記念物並みのもの。うっかり傷つけて枯らせたりしたら大変なことになってしまう。しかもこの松は砂地に生えていた。掘り出して運ぶときに砂が落ち、一緒に根も落ちたりしたら、たとえ移植できたとしても枯れてしまう危険性が高い。造園会社も植木会社もリスクの高さに二の足を踏んでしまったのだ。
そこで高速道路会社は専門家にこの松の査定を頼み、7,000万円を払うから松を切らせて欲しいと地主に申し出た。だが地主は「祖父も父も私もこの松を見て育った。松を切ることはできない」と断固拒否した。どうにも困った高速道路会社が頭を抱えているところに入ってきたのが、塚本こなみさんについての情報だった。
「樹木医の資格を持ち、藤棚の広さが600平方メートルにもなる巨大な藤の移植を成功させた人がいる」
そうして塚本さんのところにこの松を移植して欲しいという依頼が舞い込んできたのだった。
「一目見て、この松が健康であることは分かりましたので、直観的に移植は可能と判断してお引き受けしました。地主の方も『この人なら』と信頼してくださいました」
樹齢500年の五葉松を移植する一大プロジェクトが、こうして始まったのである。