伝説のテクノロジー
ひたすら歩む弓弦(ゆみづる)づくりの道
弓道や流鏑馬などで使われる和弓の弦をつくっているところは、全国でも5~6軒程度しかないという。古来からある麻の弦をつくれるところとなると、さらに限られる。澤山弓弦製作所は、その数少ない弓弦の工房。麻の弦と合成繊維の弦を合わせて1日に約700本から800本ほどをつくっている。
弦師澤山倫弘さん
力技で竹に弦を張る
澤山倫弘さんは毎朝、7時前から仕事を始める。1日にこれだけの弦をつくるには、そうしないと間に合わないのだという。澤山弓弦製作所では弓弦づくりを分業制で行っている。澤山さんは、「若い衆」と呼ぶ男性の従業員とともに、竹に弦を張る作業を主に行っている。
直径3~4センチ、長さ3メートルほどの竹の先端を作業場の壁に押し当て、体重をかけながら力を入れてたわませ、麻の繊維を縒(よ)ってつくった弦を両端にかける。この竹は何度も何度も使いまわしているものが多いので、たわみやすくはなっている。だがそれでも竹の棒を弓のようにたわませるためには、相当の力が必要だ。
作業を始めて数分もたたないうちに、澤山さんの額から玉のような汗が噴き出してくる。
「夕方の5時頃、作業を終えると魂が抜けます」
と、若い衆が言う。精も根も尽き果てるくらい疲れるという意味のようだ。
「相当な力が必要なので、女性には難しいでしょう」
と、澤山さんも言う。
だが、むやみやたらに力をかければいいというものではない。
「いきなり力を入れすぎると弦が切れてしまい、商品にならなくなってしまいます。そこは気を使うところ。竹のたわみ具合と弦の張り具合を見ながらバランスよく力を入れる必要があります。力仕事ではありますが、繊細さや注意力も欠かせません」
という澤山さんは、弓弦づくりの工程で、この“張り”の作業が一番好きだという。
「リズミカルに作業するのが楽しいんですよ。若い衆と並んで作業しますが、僕がテンポを上げると、若い衆のテンポも上がってくるんです。肉体的にはハードですが、僕はこの仕事が好きだから、苦になることはないですね」