One Hour Interview
CO2を資源として活用できる道を切り開く
地球温暖化の原因物質のひとつとされるCO2は、その排出量を抑制することが人類史的課題となっている。
斎藤 進
名古屋大学
大学院理学研究科 野依特別研究室教授
枯渇資源から再生可能な生物資源へ
CO2はいまや諸悪の根源のように扱われていますが、先生はこの嫌われ者を資源として活用する方法を研究されているのですか。
人類の物質文明は、石油や石炭に代表される枯渇資源に大きく依存してきました。しかしこれらの資源は文字どおり、いずれ枯渇してしまいます。ですから枯渇資源以外のものを利用しようという研究はたくさんあり、CO2はその一番大きな候補です。学界、産業界を問わずCO2を資源として活用しようという研究は広く行われています。中には面白いものも出てきていますが、採算性や経済性の面で合わないとされています。石油や石炭はもともと生物の死骸が堆積してできたものですが、枯渇資源から再生可能な生物資源へというのが現在の大きな流れです。
再生可能な生物資源とは、どういうものですか。
人体とか植物を見ると、非常に安定な有機化合物でできています。安定ということはなかなか反応しないということで、だから生物の進化の過程でもそういう化合物は生き残ってきたわけです。人体でも植物でもそういった化合物がいろいろな機能を果たし、精密にコントロールされて成り立っています。炭素の鎖にたくさんの酸素や窒素がついて高酸化状態になっている、そういう化合物を化学変換してつくる新しい化合物が、使いやすくて再生可能な生物資源になり得ると考えています。
使いやすい再生可能資源とはどういうものですか。
再生可能資源をよく見ると、代表的な官能基を常に持っていることが分かります。カルボン酸の誘導体です。このカルボン酸が天然に豊富に存在する再生可能資源として近年、注目されています。カルボン酸はCO2からも合成できるので、カルボン酸の活用はCO2の資源利用にも貢献すると期待されています。カルボン酸をアルコールに変換すれば、多様な用途に使えるようになります。変換するためにはこれら高酸化状態にあるものを還元しなければなりません。還元するというのは簡単に言うと電子をたくさん入れるということで、そのための有効な方法のひとつが水素化です。しかしカルボン酸は豊富に存在する半面、非常に安定な化合物なので、水素化が困難な化合物のひとつとしても知られています。高温や高圧をかければ変換できるのですが、それではコストが合いません。水素化できるカルボン酸の種類が少ない、望まない反応がたくさん起き、目的とするアルコール以外の副生成物が多くなってしまうといった問題もありました。