One Hour Interview
画期的な触媒の開発で新しい薬のつくり方やシーズを提案
有澤光弘
ppmからppbレベルに下がった漏洩量
ずいぶんいろいろな研究をされているのですね。創薬系の研究は、まず何の病気に効く薬を、というところからスタートするのですか。
そういうプロジェクトもあります。でも、どこから登っていくかというのはいろいろあります。病気からスタートする登り口もあるし、この化合物は今こういう薬になっているが、別のこういう薬にもなるのではないかという発想で、化合物側から登っていくこともあります。お医者さんから「こういう薬があるといいのだが今はない」と聞いて、どうしてないのかと考え、こういうことが解明されていないからだと考え、生物系の人と一緒に研究することもあります。目標はひとつですが、登り口はさまざまですね。
では、基礎的な有機合成系の研究にはどういうものがあるのでしょうか。
これは触媒開発が中心です。僕が北海道大学にいた頃のことですからもう10年ほど前のことになりますが、独自の新しいパラジウム触媒の開発に成功しています。医薬品や電子材料などをつくるときに、鈴木―宮浦カップリングという反応が使われていることはご存知かと思います。 この反応ではパラジウム触媒を使うのですが、生成物にパラジウムが残存してしまうという問題があります。パラジウムの残っている量が多いと、アレルギー症状などの副作用を起こすことがあるので、精製を繰り返したりして除去する必要があります。しかしそのためには手間とコストがかかります。そこであまり漏洩しないパラジウム触媒をつくれば、特に生命科学の研究に貢献できると考えて、2000年ごろから研究を始めました。
結構前のことなんですね。順調にいったのですか。
最初のプロジェクトは始めて10年くらいでダメになってしまいました。ただ、当初の本命ではなかったのですが、本命の物質と比較対照するために金を使ったものも扱っていました。実はこれはいわゆるセレンディピティのようなもので、あるとき金の表面を硫酸と過酸化水素水の合成液で洗浄して酢酸パラジウムのキシレン溶液に漬けて加熱したら、金の上に薄膜ができたんです。最初はそれが何なのかよくわからなかったのですが、この薄膜を使うとパラジウムカップリングが進行して、漏洩量がppmではなくppbレベルまで劇的に下がったのです。