One Hour Interview
植物の代謝物を分析し、生命現象の謎に迫る
メタボロミクスという新しい学問領域にいち早く参入。日本におけるこの分野のパイオニアの一人として挑戦し続けてきた草野都さんは、多くの実績を上げている。
草野都
筑波大学
生命環境系教授
留学先のスウェーデンでメタボロミクスと出会う
メタボロミクスという分野の研究をされているとお聞きしました。不勉強でお恥ずかしいのですが、メタボロミクスというのは初めて聞く言葉です。どういう学問分野なのでしょうか。
簡単に言えば、メタボロミクスとは、生命活動によって生み出される代謝物質を網羅的に解析することです。質量分析計を使って代謝物全体を分析することで、生命現象を明らかにしようというのが目的です。
もともとメタボロミクスを研究テーマにされていたのですか。
いや、鳥取大学では天然物化学を専攻し、農学博士号を取得しています。メタボロミクスと出合ったのは、留学したスウェーデン農業科学大学でのことです。
スウェーデンに留学というのも珍しいケースではないでしょうか。なぜスウェーデンだったのでしょう。
向こうの大学でちょうどメタボロミクスの研究室を立ち上げようとしていたんです。それでガスクロマトグラフ質量分析計を使える化学者を探していたようで、私にも声がかかったんです。もともとスウェーデンはデータを統計的に解析する技術が世界でもトップクラスで、ケモメトリクスの発祥の地でもあります。で、これはチャンスだと思って飛び込んだわけです。
それで天然物化学からメタボロミクスに路線を変更されたのですね。
天然物化学では、最も重要と思われる一つの物質に絞って探求していきます。ところがメタボロミクスは全体を把握し、その中でそれぞれの物質の役割を探求し評価していきます。視点というか、発想が全然違うんですよ。だからメタボロミクスを初めて知ったときは、こういう考え方もあるのかと衝撃を受け、面白くなってこれをやろうと決めたんです。当時はメタボロミクスはまだあまり知られていない分野でしたし論文も20報出ていないような状況でした。