One Hour Interview
新しい原理で世界を一変させたい
平面分子を曲面分子に一段階で変換できる反応を開発した廣戸聡さん。
論文がネイチャー姉妹誌に掲載されるなど輝かしい実績を上げている。
廣戸 聡
京都大学大学院
人間・環境学研究科
准教授
誰でも簡単にできる反応がいい
京都大学のホームページには、先生が「平面分子を曲面分子に変換できる手法を世界で初めて編み出した」との記述があります。これはいつのことですか。
論文を発表したのは2012年です。アントラセンという平面の化合物を一段階で螺旋型の構造を持つ分子、アザヘリセンに変換できる反応を見つけたんです。もっともこれは偶然見つけた反応でした。
偶然だったのですか。
もともとは平面分子を曲面分子に変換するのが目的ではありませんでした。芳香環の歪みについて研究するための材料としてよく使われるシクロファンという化合物があります。歪みを持つ化合物は一般的に安定ではなく、平面的な分子からつくるのは難しいとされていました。歪みを生じさせるためにはかなりのエネルギーが必要で、通常は高温で反応させなければなりませんでした。ところがシクロファンが普通の溶液中の有機合成の反応で、しかも一段階でできたため面白くて、条件を変えて、いろいろ試していたら、曲面的な構造に変化する反応が見つかったんです。
そのときは、世界で初めてという認識はありましたか。
世界初ということまでは知りませんでしたが、これはすごいと思いました。
そういうときは何回も繰り返して再現性を確認するのですか。
そこは細心の注意を払って確認しました。私は自分が合成した化合物を皆さんにも使ってもらいたいと思っていて、そのために誰にでもできるような反応を開発すべきだということを信条としています。特殊な操作など必要のない、誰でも簡単につくれる反応を見つけられたらいいと思っていたところにこの反応を見つけたので、うれしかったですね。