One Hour Interview
今、見えないものを見えるようにしたい
今は見ることができないものを見たい。そんな思いで馬越貴之さんは電子顕微鏡に匹敵するような分解能を持つ、光学顕微鏡の開発に挑んでいる。
馬越貴之
大阪大学
高等共創研究院 講師
大学院工学研究科 物理学系専攻
応用物理学コース 講師
電子顕微鏡並みの分解能を
事前に目を通した資料には、顕微鏡の開発に取り組んでいるとありました。それは電子顕微鏡ですか。
いや、光学顕微鏡です。今ある光学顕微鏡は、電子顕微鏡ほどの分解能を持っていません。だから例えば原子レベルの大きさのものをはっきり見ることはできません。一方で電子顕微鏡の画像には色が着いていません。モノクロです。光学顕微鏡は観察対象のそのままの色を見ることができます。色が着くだけでも、モノクロ画像に比べるといろいろな情報がわかるようになります。
つまり、電子顕微鏡並みの分解能を持つ光学顕微鏡をつくろうとしている、ということですか。
そうです。光学顕微鏡の分解能が電子顕微鏡に比べて低いのは、光の波長が長いからです。可視光の波長は400~700ナノメートルほどですから、0.1ナノメートルくらいしかない原子を見ることはできません。これはいわば自然の摂理ですから、どんなにいいレンズを開発しようとも、原子を見ることはできないのです。しかし、大阪大学のフォトニクスセンターの河田聡先生は25年ほど前に、レンズを使わず金属の探針を使う方法を開発されました。極細に加工した探針の切っ先に光を当てると、光の波長の限界を超えて小さなものが見えるようになります。
探針の先端を小さくすればするほど、小さなものが見えるようになるということですか。
それが先端増強超解像ラマン分光技術の原理です。大阪大学発の技術ですが、今は世界中で開発が進んでいます。
2017年に松籟財団の助成を受けられたときは研究目的について、そうした技術でペロブスカイト材料の劣化メカニズムを解析し、太陽電池に実装するところまで展開していきたいと説明されていました。
有機無機ペロブスカイト材料というのも日本発の技術で、太陽電池に用いるとシリコンに迫る光電変換効率を示します。ただ、発電時に光劣化現象を起こすという課題があったのです。そこで私は先端増強超解像ラマン分光技術を用いて、光劣化現象の根源となる化学結合変化を単位胞レベルで観察、分析できれば、この課題解決につながると考えました。
結果はどうでしたか。
ペロブスカイト材料のサンプルをつくろうと試みましたが、残念ながら材料の専門家ではないので、いいものはできませんでした。