One Hour Interview
酵素で解き明かす生合成のメカニズム
酵素の結晶構造の解析により、
植物や微生物が行う
生合成の研究に取り組む森貴裕さん。
社会実装可能なオンリーワンの
化合物の創生を目指す。
森 貴裕
東京大学
大学院薬学系研究科 天然物化学教室
准教授
複雑な化合物をつくり出す天然資源の機構に魅せられて
まず、現在の研究テーマについてお話しいただけますか。
一言でいえば、天然物化学です。その中でも僕は化合物の生合成、つまり植物や微生物が医薬品のもとになるような複雑な分子をどうつくっているのか、その分子機構や化学反応を明らかにする研究をしています。特に着目しているのが、酵素です。生物が化合物をつくるときに触媒の役割を果たすのが酵素で、何段階もある反応が進んでいくときに酵素がどう機能しているのか、それを解明するために今は主に酵素の構造を見ています。
なぜこのテーマを選んだのでしょうか。
今、僕は阿部郁朗先生の研究室に所属していますが、静岡県立大学の学生だったとき、研究室に阿部先生が准教授でおられました。阿部先生の研究を見ていて、天然資源がとても複雑な構造を持つ化合物を簡単につくり出すことを知り、魅力を感じたのがきっかけです。学部生の頃からですから、もう14~15年、このテーマで研究していることになります。
先生の研究は、何か新しい化合物を合成することが目標なのですか。
大きな目標が3つあります。1つは、天然物が化合物をつくり出す分子機構を明らかにすること。これはサイエンス的な興味をベースにした目標です。2つ目は、薬やバイオマス材料などに使える有用な新しい化合物をつくり、社会還元すること。そして3つ目は、そうした化合物をより効率的につくり出す方法を確立することです。