次代への羅針盤
無理だと思われることに挑戦してこそ有機化学だ
環境安全研究管理センター長
トムソン・ロイターによる「第4回リサーチフロントアワード」のひとりに選出された大阪大学の茶谷直人氏。「無理だと思われるようなことに挑み、新反応や新現象の発見を最大のモチベーション」として研究を続けてきたという。あらゆる産業が化学の知見や技術を必要とし、有機化学の果たすべき役割はますます大きくなっている。世界をリードする日本の有機合成化学がさらに発展するためには、独創性を重んじる日本の化学会の伝統を守ることが大切だと喝破する。
Naoto Chatani
茶谷直人
大阪大学教授 環境安全研究管理センター長
多くの研究者が引用する論文
今回、トムソン・ロイターの「リサーチフロントアワード」の対象となったのは「エーテルの触媒的クロスカップリング反応」という研究領域です。このテーマで最初の論文を発表してから、この分野の研究をする研究者や研究グループはどんどん増えています。特に、昨年、私たちの仕事をまとめた総説を米化学会の雑誌に投稿してからは、関連した論文も増えています。私たちの論文が多くの研究者に引用されていることは確かですし、それは名誉なことだと思います。また、これに関連して今年の10月には姫路でSymposium on C-O Activationが初めて開催されることになっています。
フェノールの炭素-酸素結合を切り、別の結合と入れ替える、つまりクロスカップリングする方法は、ほとんどありませんでした。クロスカップリングで一番よく知られているのは鈴木章先生たちのカップリングで、炭素-ヨウ素結合、あるいは炭素-臭素結合を切って、ホウ素でクロスカップリングするという反応です。鈴木先生はこの研究でノーベル賞を受賞されたわけですが、フェノール誘導体の場合、酸素上にトリフラートなどの活性化する基を持ってきたときはカップリングできますが、メチル基の化合物のアニソール(フェニール・メチル・エーテル)を使った例はほとんどありませんでした。
私たちの研究室は鈴木クロスカップリングがアニソールでもできることを発見し、2008年に発表しました。当時、他の研究者や研究グループは、私たちのような研究をほとんどしていなかったと思います。そんなことは無理だろう、できないに決まっていると思っていた研究者が多かったのではないでしょうか。