伝説のテクノロジー
思いやりの心が伝わる紙の建築
行動する建築家 坂茂さん
材料の強度と建物の強度は別だ
もともとは1980年代の後半に海外の建築家の家具展を企画したとき、紙管を会場の構成に使ったのがきっかけだった。限られた予算の中で、木を大量に使うことはできない。仮に使えたとしても、家具展が終わった後は廃棄することになるのでもったいない。そんなことで悩んだ末の、いわば苦肉の策であった。だが、実際に使ってみると紙管は厚みや長さ、直径などを思いのままにローコストで作ることができ、しかも木と同じような温かみがある。そもそも再生紙で作られたものだから、使い終わった後はまた再生紙の原料になるというのも大きな魅力だった。
けれども紙は建築の構造材として認められていない。したがって紙管を構造材として建築に使うためには強度実験などをして、建築基準法第38条の認定を取らなければならない。
坂さんはそのためにわざわざ自前で「紙の家」を設計し、さまざまな実験を行ってデータを取り、認定を取ることに成功したのだった。
「オレンジジュースは紙パックに入っているでしょう。紙は防水加工できますし、壁紙のように難燃化もできる材料なのです。もちろん鉄やコンクリートに比べたら強度は劣ります。でも、弱い材料は弱いなりに使えばいいのです。それにコンクリートの建物でも、設計がよくなければ簡単に地震で壊れます。材料自体の強度と建物の強度は別なのです」
そう話す坂さんによれば、紙の建築で唯一難しいのは「人の先入観」だと言う。
「紙は弱いから建築の構造材料に使うのは無理だと思っている人が大半です。役所もそう。その先入観を打破するのがひと苦労です。女川で仮設住宅を建てるときも同じようなことがありました。3階建ては前例がないからといって、役所がなかなか受け付けなかったのです」
ただ、坂さんは建築材料として紙にこだわっているわけではない。そのときどきの条件に適した材料を使っているだけだ。コンクリートも鉄も使う。もっとも最近は紙の建築の実績が広く知られるようになったので、海外から「紙でつくって欲しい」と頼まれるケースも多いという。