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伝説のテクノロジー

出雲大社「平成の大遷宮」で
約120年ぶりに復活した「ちゃん塗り」の技術

島根県の出雲大社では今、大遷宮が進められている。国宝に指定されている本殿などに、
60年ぶりの修理が施されているのだ。この大遷宮で約120年ぶりに復活した技法がある。
ロジン(松やに)を使う「ちゃん塗り」だ。文化財修理の専門家たちは、古文書を頼りにこの伝統技法の復活に取り組んだ。
成分の分析から始まったその取り組みは、文字通り試行錯誤の連続だった。
このままでは廃れていったかもしれない幻の技法が、こうして蘇ることになった。

不慮の火事で資料を焼失

 毎年1回、八百万の神々が集まるところとして知られる出雲大社では、およそ60年に1回、大遷宮を行うことになっている。遷宮といっても、神社そのものを別の場所に移すわけではない。本殿などを本格的に修理するため、本殿に祀られている神を一時的に仮本殿に移すことから、大遷宮と呼ばれるのだ。国宝である現在の本殿が造営されたのは1744年(延享元年)。以来、これまでに3度の遷宮が行われており、前回の遷宮が行われたのは1953年のこと。2013年はそれからちょうど60年目にあたる。

 「修理を終えた後、神様にご本殿にお戻りいただく本殿遷座祭を2013年に行うと決め、それに向けての準備に着手したのは2000年頃からでした。まずは、60年前に、どのように遷宮を行ったかを知るための資料収集から始めました」

 出雲大社で禰宜(ねぎ)を務める平岡邦彦さんがそう語る。大遷宮は60年に1回しか行われないから、長年神社に奉職していても遷宮に立ち会えるとは限らない。現在、出雲大社には53人ほどの神職が務めているが、前回の大遷宮を実際に見た人はほとんどいない。しかも不運なことに出雲大社では、前回の大遷宮が行われた直後の1953年5月に出火し、拝殿、鑽火殿(さんかでん)、庁舎などを焼失して、遷宮に関する資料の多くを失っていたのだ。

 平岡さんたちは、独立行政法人国立文化財機構の奈良文化財研究所などと文化財としての建造物調査を進めながら、修理の段取りなどを検討していった。だが、平岡さんは「いろいろ調べましたが、60年前のことについてはまだ分かっていないことの方が多いのではないでしょうか。だから前回と比べて、何が違うのかも知りようがありません。ただ、分かったことはきちんと継承していこうというのが基本方針でした」

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