伝説のテクノロジー
消えかけた国産線香花火の灯を守る
花火製造職人 筒井良太さん
「自分が受け継ぐ」
そう決めると、筒井さんは線香花火づくりの技法を懸命に修得した。100年以上使われてきた火薬の配合機なども譲り受け、実家の筒井時正玩具花火製造所に戻って線香花火づくりを始めたのである。
線香花火に使う黒色火薬は、松煙、硝石、硫黄を配合してつくる。松煙は松をいぶした煤(すす)で、書道の墨などにも使われている。筒井時正玩具花火製造所で使っているのは、松の切株を30年以上寝かせた宮崎県産の松煙だ。
「原料の配合割合は秘伝です。ただ、松煙は天然のものですから、そのときによって油分が多かったり少なかったりします。そのため配合の割合を一定に保っても、火をつけたときの燃え方は微妙に違ってきます。だから配合してできた黒色火薬を広げて、異なるところから複数選んで火をつけてみます。それで燃え方のいいところの火薬を選びます。全体的に結果がよくない場合は、配合し直します」
筒井さんは以前、人に頼まれて松煙の代わりにカーボンファイバーを配合してみたことがある。だが、それでつくった火薬だと火花が全然飛ばなかったという。やはり、線香花火は松煙でないとダメなようだ。
1回につくる黒色火薬の量は20キログラムほど。まず、松煙、硝石、硫黄をふるいにかけたうえで、配合機にかけて5~6時間、配合する。そうしてできあがった火薬は紙袋に入れ、安全な場所で1年間、寝かせる。そうすると火花が安定するのだという。