ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

日本独自の鍛造(たんぞう)技術で鉋(かんな)をつくる

軽井沢大賀ホール 元相談役・支配人 大西泰輔さん

自分のやり方を貫き黒字転換

 ところがやってみると面白くてどんどんのめりこんでいった。そして機械メーカーに勤めていたときに学んだ展示会販売や直販の手法を常三郎の商売にも取り入れていった。20年前にはインターネットによる販売も始めた。さらに魚住さんはあるとき、ひとつの決断をした。

 「実はそれまで英国製の古い錬鉄を鋼の材質に使っていることを、鉋業界は一般に公表していませんでした。そんな材料を使っていることを明かせば説明を求められるでしょうし、値下げも要求されるからです。しかしあるとき、うちの鉋を買ったお客さんからクレームがきました。お客さんはぱっと見た印象で商品を選んだのですが、その鉋の用途と合わない使い方をしていたため、全然きれいに削れなかったのです。これではいけないと考え、材料を公表し、きちんと説明することにしたのです」

 業界はこれに猛反対した。直販にしても、問屋を通すという業界のしきたりに反することだった。だが、魚住さんは反対を押し切り、自分のやり方を通した。そして、市場はそれを支持したのである。現在、常三郎の売り上げの3分の1は直販が占める。赤字もすっかり解消し、15期連続で黒字経営だ。

 それでも課題は山積だ。最近は住宅メーカーがつくる家が増え、大工の鉋離れが進んでいることもそのひとつだ。常三郎の取引先も、家具メーカー、建具メーカーなどが多く、大工職人との取引はごくわずかだ。

 後継者の問題も深刻だ。兵庫県三木市には2年前まで鉋鍛冶が8軒あったが、今はわずか4軒に減っている。後継者がいないため、廃業するところが後を絶たないのだ。魚住さんによれば今残っている4軒も後継者がいるのは2軒だけだ。

 「うちも3人いる息子たちは継ぐ気はなさそうです。ただ、今30歳の工場長が継いでくれるのを期待しています。この数年、京都伝統工芸大学校の卒業生をほぼ毎年採用しています。この4月にもひとり、新人が入りました。しかし向き不向きもあり、なかなか定着しないのが悩みの種です」

刻印打ち。鉋の銘や刻印を打つ作業。行っているのは入社4年目の坂本さん。刃の製造と台打ちのできる職人として修業中。

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