ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

心揺さぶる硝子の造形

GLASS-LAB 代表取締役・椎名隆行さん

平切子の役割

 こうして隆行さんは2014年、GLASS-LABを創業した。

 隆行さんは職人ではない。江戸切子の製品をつくる技術は持っていない。だから隆行さんが企画を考え、営業をし、受注した製品を椎名硝子に発注してつくってもらうというスタイルにした。椎名硝子は小売りをしていない。基本はBtoBのビジネスモデルだ。だからGLASS-LABは椎名硝子とバッティングしないように、BtoCのビジネスモデルを基本にしている。つまり小売りだが、受注生産を主軸にし、在庫は極力持たないようにしている。

 世界にたった1つの特別なカスタマイズグラスをつくる、というのがキャッチフレーズだ。

平切子の研磨作業。大小さまざまなサイズからなる、車輪のような刃で削っていく。

 江戸時代の天保年間に始まったとされるガラス工芸の江戸切子というと、麻の葉、矢来、籠目などの直線的で幾何学的な模様が彫られているものが多い。ところが江戸切子には平切子という技法もある。研磨機を使ってガラスの面を平たくしたり滑らかにしたりする技法だ。

 江戸切子にはしばしば透明なガラスに色ガラスを重ねた被きせガラスが使われる。その色を被せた面のガラスを平切子の技法で削ると、透明になる。そうして江戸切子は鮮やかな色の対比を描き出すわけで、被せガラスは重要な役割を果たしていることになる。しかし、どうしても脇役的な技法になることもあり、平切子を得意とする職人は減り続けてきた。隆行さんによれば平切子ができる職人は今、全国でも10人くらいしかいないそうである。隆行さんの父親の康夫さんはその数少ない平切子の職人である。

 一方、サンドブラストというのは砂などの研磨材をコンプレッサーで吹き付けて加工する技法のことだ。もともとは錆落としや塗装はがしなどに使われていたが、ガラス面に文字や模様を彫刻する技法としても広く使われている。

次のページ: 幅0.09ミリの線を彫る

1 2 3 4