伝説のテクノロジー
光が織りなす独特の造形美
国会議事堂や出雲大社にも取り入れられているステンドグラス。光の差し方で表情を変えるこのガラス工芸品を製作も修復もできる技術を持つ工房は少ない。
ステンドグラス職人・松本一郎さん
貴重なステンドグラス
インターネットで「警視庁、ステンドグラス」を検索すると、いくつかの新聞記事がヒットする。1931(昭和6)年に建設された警視庁の旧庁舎の吹き抜け天井に設置されていたステンドグラスの一部が今年発見された。国会議事堂のステンドグラスなども手がけた、ある作家の貴重な作品だということが判明し、警視庁が専門業者に修復の依頼をしたという内容だ。「このステンドグラスのことは私も以前から知っていて、探していたんです。だから警視庁から問い合わせが来たときも、貴重なものだから大切に保存してくださいとお伝えしました」
松本ステインドグラス製作所の3代目、松本一郎さんがいう。警視庁は同社に修復を依頼し、今は警視庁現庁舎のエントランスホールに展示されている。
松本ステインドグラス製作所は1948年、松本三郎さん(故人)によって設立された。三郎さんは戦前、日本のステンドグラス製作の祖といわれる宇野澤辰雄氏(故人)が創立した宇野澤ステインドグラス製作所で働いていた。そのため松本ステインドグラス製作所は宇野澤氏直系の工房とされている。
直系であることの証の一つが、H型をした鉛線(ケイム)の使用だ。
ステンドグラスは、カットした複数のガラスをつなぎ合わせてつくる。このときガラスの縁に銅テープ(コパーホイル)を貼る工法と、ケイムでつないでいく工法がある。松本さんによれば「テープのほうが比較的簡単なので、今はその手法のほうが多いかもしれない」という。だが、松本さんたちは宇野澤ステインドグラス製作所以来、受け継がれてきたケイム工法を用いている。「出来上がったステンドグラスの強度で比較すると、ケイムを使ったほうがはるかに強度は高いのです。私たちの手がけるステンドグラスは建築の分野に使用されるものが多く、外壁などにもよく使われます。そうなると安全面において強度や水密性が特に重要になるのです」