次代への羅針盤
大学や企業の壁を越えもっと外へ
片岡一則
刺激に乏しい日本
日本は依然として終身雇用制が根強く残っています。だから企業の研究室では、ずっと同じ顔触れが机を並べています。けれどもアメリカは違います。頻繁にメンバーが入れ替わります。一体感が出にくいというデメリットはあります。しかし、刺激に満ちています。
一方の日本の研究室は、価値観を共有した人たちが残るので、強い一体感があります。しかし、刺激には乏しいといわざるを得ません。
イノベーションが生まれやすいのは、どちらでしょうか。
2年前、私のところにNIH(アメリカ国立衛生研究所)の研究者が来ました。彼に日本の印象を聞くと、
「とてもピースフル(平和)で、ステイブル(安定)で、セーフティ(安全)だ」と答えました。
どれもとてもいいことです。しかし、世界中がどんどん変化しているとき、ピースフルでステイブルでセーフティな社会の中にどっぷりとつかった人間がその変化に対応していけるでしょうか。
高い水準の教育を実現し維持するには、この3つが不可欠です。その意味で日本にはまだ底力があります。ポテンシャルは高いので、変化に対応し、うまく変換していけば、経済も科学技術もまだ伸びる可能性はあるでしょう。しかし、変換できなければ、茹で蛙になってしまいかねません。
大学も研究機関も企業も今、そうした問題に直面しているのです。
越境する好奇心を持ちなさい。
片岡一則[かたおか・かずのり] 1950年、東京都生まれ。東京大学工学部合成化学科卒業。同大大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了、工学博士。東京女子医科大学医用工学研究施設助手、同助教授、東京理科大学基礎工学部教授、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻教授などを経て、2015年より現職。パリ大学、ミュンヘン大学、浙江大学、四川大学、成均館大学、ハルビン工科大学など多くの海外大学でも客員教授や特任教授なども務めてきた。大のワイン好きでもあり、「ワインボトルの中には人生がある」と語る。
[第9回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞]
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