伝説のテクノロジー
狂言は人間の弱さを面白おかしく表現する“立体落語!!”
6歳のときに初舞台に立った狂言師の善竹十郎さん。
70歳になった今でも朗々たる声はよく通り、舞の所作には寸分の隙もない。
大学で狂言を教えたり、海外で公演したりと、その活動は能舞台以外にも広がっている。
今回、お話をうかがって、能・狂言は、松と驚くほど深いつながりがあることも分かった。
それどころか狂言には、なんと「松脂」というタイトルの曲まであるのだった。
狂言師 善竹十郎さん
狂言師は筋トレいらず
「私、困ったことに内緒話ができないんです
穏やかな笑みを浮かべながら、善竹十郎さんが言う。
別に地声が特別大きいわけではない。張りのある声が、数十メートル離れていてもはっきり聞き取れそうなほどよく通るのだ。実際、目の前で謡(うたい)を聞くと、その迫力に圧倒される。特別な呼吸法や発声法があるわけではないというが、狂言の「かまえ」(基本の立ち姿)や型は、全身の筋肉を使わないとできないという。だから狂言師は日々の稽古や舞台上での演技だけで、全身の筋肉が十分鍛えられる。おかげで「狂言師は筋トレいらず」といわれるほどである。善竹さんの朗々たる声も流麗な所作も、やはり長年の修練の賜物ということだ。
現在、狂言には大蔵流と和泉流という2つの流派があり、善竹家は大和猿楽の狂言を伝える大蔵流の系譜。善竹さんの祖父の彌五郎(やごろう)は人間国宝にもなった名人で、もともとは茂山彌五郎という名だったが、1963年に金春流79世宗家・金春信高様から善竹の姓を与えられたのである。
「5歳の頃から父(善竹圭五郎)の稽古を受けるようになりました。6歳のとき、『靭(うつぼ)猿』の子猿役で初舞台を踏みました。これは明確に記憶しています。父の稽古は厳しかったですね」