伝説のテクノロジー
狂言は人間の弱さを面白おかしく表現する“立体落語!!”
狂言師 善竹十郎さん
松脂の精が登場する狂言も
さらに面白いことに狂言には「松脂」という曲もある。年頭の祝いとして松囃子(まつばやし)の催しを開くと、松脂の精が現れるというなんとも奇想天外なストーリーだ。これが「松の精」なら能にもなりそうだが、「松脂の精」というところが、いかにも狂言らしいユーモアを感じさせる。しかも松脂の精は「やにやにやにや、松脂やにやァー」と言いながら舞台に登場するというのだから、なんとも滑稽である。
実は善竹さん、この松脂の精の役を演じたこともある。このとき被る面を善竹さんは自分で制作している。古道具屋で購入した江戸時代のものと思われる馬具の障(あおり)に自分で細工を施し、小道具として使っている。
「松脂の精は、弓の弦に使う松脂を力強く練って舞い納めます。武士の世の中がいつまでも栄えることを願っている曲と考えられます」
そう語る善竹さんは、古希を迎えた現在も年100回以上、舞台に立つ。一方で大学や子ども向けのワークショップで狂言を教えたり、海外公演を行ったりもしている。イタリアのコメディを狂言バージョンで演じたり、シェイクスピア劇を狂言に翻案して演じたりしたこともある。
「90歳でも現役として舞台に立ち、『70歳くらいにしか見えない』と言われるように、いつまでも若い気持ちでいたいですね」
約700年間にわたり、営々と受け継がれてきた狂言の本質を守りながら、新しいことにも積極的に挑戦していくその姿勢は、きっと若い狂言師たちにも大きな刺激となっているに違いない。
ぜんちく・じゅうろう 1944(昭和19)年、大阪市出身。早稲田大学政経学部卒業。祖父善竹彌五郎、父・圭五郎、大蔵流24世宗家故大藏彌右衛門に師事。重要無形文化財総合指定保持者。(公社)能楽協会・(一社)日本能楽会会員。1983年芸術選奨文部大臣新人賞、1993年大阪文化祭賞受賞。2014年夏まで桐朋学園芸術短大で48年間、狂言を教えてきた。
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