伝説のテクノロジー
和弓矢製造
矢師・小山泰平(たいへい)さん
小売り業に参入、射場も開設
小山矢は伝統的な竹矢づくりを守りながら、一方で、三郎さんの時代から新しいことに挑戦してきた。
仕上げの羽根は、本来鷹や鷲が主流だったが、現在は七面鳥やガチョウの羽が多く使われている。しかし、そうした鳥の羽根模様は美しくないという声があったため、三郎さんは愛知県産業技術研究所に依頼し、羽根の新しい漂白技術を開発した。さらに顧客の要望に応えるため、羽根のデザインにもこだわった。愛知産業大学と提携して産学共同で羽根のデザインを考えたのだ。
泰平さんが社長になってからは、それまで取り組んでいなかった正社員の採用も積極的に行った。企業の基盤を整えなければ、持続的な成長はできないと考えたからだ。
2020年には新たに小売り業にも参入。店舗を開設するとともに射場を併設した。それまでのように製造卸だけでは限界があると考えて、高校などに直接販売できる仕組みをつくることが狙いだ。
「お客さんも新しい矢を買うときには、試し打ちをしたいはずです。特にアルミの矢とカーボンの矢のどちらがいいか迷ったときなど、試し打ちで違いを体感してみたいという方がたくさんいらっしゃいました。顧客満足度を高めたいという思いもあり、射場の建設に踏み切りました」
この射場は試し打ちだけではなく、練習場としても使用できる(有料)。今は新型コロナウイルスの影響で、中学・高校では部活動が制限されている。そうした学校の弓道部員が練習の機会を求めてよくこの射場を利用しに来るという。
そんな泰平さんにとって目下の課題は、竹矢づくりのできる後継者がいないことだ。実は同社でつくる矢はアルミ製が7割、カーボン製が2割ほどで、竹矢はほんの少ししかない。主力顧客の中高生は大半が廉価な矢を使っているからだ。
「製造に時間とコストのかかる竹矢は、ほとんど利益が出ません。だから竹矢の製造は父と伯父に任せ、社員にはさせていないのです。とはいえ、神事などには竹矢しか使えませんし、文化として竹矢も残さなくてはいけないと思います。竹矢づくりの後継者をどうするか、きちんと考えていかなければなりません」
小山矢7代目当主として、そして数少ない矢師の一人としても、泰平さんは真剣にこの課題と向き合っている。
小山泰平[こやま・たいへい](写真左。右は父・三郎さん) 1980年、愛知県岡崎市生まれ。小学生の頃から竹の仕分けなど家業を手伝っていた。大学卒業後は企業に就職して塾の講師を3年間務めた。小山矢に転じたのは25歳のとき。2014年、三郎さんの後を継いで社長に就任した。趣味はバーベキュー。30代のときにクモ膜下出血を発症したが、無事に乗り越え、仕事に邁進している。
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