ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

伝統材料の紙に新たな命を吹き込む温故知新融合研究

古くから伝わる伝統的な材料である紙の新たな用途を開拓したい――。
そんな思いで始めた研究は、紙の触媒や蓄電デバイスという
画期的な成果を生み出してきた。しかもその一部は
すでに実用化されている。古くて新しい紙という素材が、
私たちの生活を変える日が近い将来、やってくるかもしれない。

古賀大尚

大阪大学
産業科学研究所
セルロースナノファイバー材料分野 特任助教

水素をつくる紙

事前にいただいた資料に、水素エネルギーをつくる紙を開発したとありました。想像もつかないのですが、いったいどのようなものなのでしょうか。

ペーパー触媒の写真(挿入図)と内部の走査型電子顕微鏡写真。繊維ネットワーク構

 それは九州大学の大学院にいたときの研究テーマです。私はその研究で学位を取りました。紙というのは定義が広く、広義にいえば繊維が堆積してできたものを紙といいます。私がこの研究で使ったのは、木材繊維(パルプ繊維)由来の普通の紙ではなく、セラミック繊維でつくった広い意味での紙です。その紙の中に、水素をつくる金属触媒の粉を混ぜ込みます。粉の状態のままだと、水素をつくった後に回収して再利用するのが難しいので、紙に担持(たんじ)*させるのです。そうすることで取り扱いやすくなります。

 先ほども申しましたが、紙は繊維が堆積したものなので、内部はスカスカの状態ですから、その中に液体やガスを流し込むことができます。したがって、水素をつくる触媒の粉を混ぜ込んだ紙の中に水素の原料を流し込めば、水素をつくる紙ができるのです。

*担持=触媒として利用する金属(たとえば白金)の微粒子を担体に付着させること。(大辞林)

他にも環境を浄化する紙や、有用化成品をつくる紙も開発されたそうですね。

 いずれも抄紙技術を応用して開発したペーパー触媒によるものです。環境を浄化する紙は、NOXを流し込むと、出てきたときには窒素になっているというものです。これは小型屋外作業機械用に一部が実用化されています。化成品をつくる紙というのは、原料を流し込んだら薬のもとになる化成品が出てくるというようなイメージです。

 紙を使うと反応効率が上がるというのがひとつのポイントです。これは紙がとても都合のいい構造をしているためです。繊維が積層した紙のネットワークは、全部が連結した構造になっています。そのためあらかじめ繊維の表面に触媒の粉をつけておいて液体やガスを流し込むと、全体に行き渡るのです。これが単純なハニカム構造だったりすると、ガスや液体が直線的にしか流れず、拡散しにくくなってしまいます。物質をきれいに流し込む紙の構造が、反応効率を高めるということです。

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