One Hour Interview
複素環新規合成法を創製し、有機n型半導体材料の開発に挑む
新規の化合物をつくるには、反応そのものも新しく創製しなければならない――。
倉橋拓也さんはそうした考え方に基づいて、
従来の有機合成化学にはない新しい複素環合成法を開発した。
そしてその合成法により優れた有機n型半導体材料の開発に挑んでいる。
さらには将来の分子デバイス開発も視野に入れながら、
次々と新しい領域を切り開きつつある。
倉橋 拓也
京都大学大学院
工学研究科材料化学専攻 准教授
イレブンナインの純度を
そもそもなぜ新しい合成法を開発しようと考えたのですか。
世の中にまだないものを有機合成によってつくりたいというのがスタートです。その場合、既存の合成法ではなく、新しい反応でつくらないと、本当に新しいものはできないのではないかと考えたからです。
具体的なケースでもう少し詳しく教えていただけますか。
有機薄膜太陽電池の材料を開発しています。これまで有機薄膜太陽電池として開発されてきた複素環高分子半導体材料の多くは、p型半導体特性を示すものでした。優れた特性を示すn型半導体材料の開発例はあまりありません。これまで見つかっているn型半導体の高分子はいろいろ欠点があったからです。特に大きかったのが不純物の問題でした。
その不純物とは、どういうものなのでしょうか。
無機塩が主です。そうした不純物が多く入っていると、半導体としての性能が落ちるだけではなく、合成した後に不純物を単離精製する工程が必要になりますから、コストもかかります。したがっていかに純度の高いものをつくるかは、コストの面でも重要になるわけです。
どれくらいの純度が望ましいのですか。
できればシリコンのイレブンナイン、つまり99.999999999%くらいまで高純度化する必要があります。市販されているような有機試薬の純度99.9%程度では、有機薄膜太陽電池に応用する際には問題があります。
不純物のないものをつくろうというとき、まず何から手をつけるのですか。
窒素や酸素、硫黄などの元素を有する環状化合物を複素環といいます。化合物の機能や特性を決定づける大きな役割を担っているもので、医薬品や農薬、機能性材料などに使われています。不純物をなくすには、従来の方法では不可能だった形式による複素環合成法を開発すればいいのではないかというのが基本的な考え方です。そこでまず農薬に着目し、農薬をつくる方法を考えている途中で、不純物ができない方法を見出したのです。