One Hour Interview
化学の視点から、二次電池材料を開発
多孔性の金属有機構造体を用いて、二次電池の材料開発をしている𠮷川浩史さん。
すでにリチウムイオン電池の倍近い容量を持つ正極材料の実現にも成功しているという。
𠮷川浩史
関西学院大学理工学部
先進エネルギーナノ工学科准教授
遷移金属酸化物では容量に限界がある
事前に資料を読ませていただきましたが、難しくてあまり理解できませんでした。分かったのは二次電池関連の研究をされているということくらいでした。
そうですね、われわれは多くの人とは異なる視点で新しい二次電池をつくろうとしています。二次電池は筐体を別にすれば、正極、負極、セパレータ、そして電解液で構成されています。基本的にこの4つがあれば二次電池はつくれます。その中で電池の性能の最大値を決めるのが正極材料です。二次電池として今、普及しているリチウムイオン電池の正極には、リチウムコバルト酸などの遷移金属酸化物が使われています。けれどもそうした遷移金属酸化物の材料では電池容量に限界があります。その限界を超える正極材料の開発が、私たちの研究テーマの1つです。私たちは一般的にMOFと呼ばれる金属有機構造体に着目し、これを用いて高性能な正極材料をつくることを目指しています。
MOFに着目したのはなぜでしょうか。
MOFは多孔性で結晶質の化合物です。蓄電池とは異なる分野ですが日本でも20~30年前から活発に研究されてきました。当初はそうした物質をつくること自体がフォーカスされていましたが、その後、たくさんある孔にガスを吸着させたり貯蔵したり、あるいは孔の空間を利用した触媒反応とか分子認識などの研究にシフトしていき、ここ10年くらいは孔の中に電解質イオンを通す研究が盛んになっていました。そこから二次電池の正極材料とか燃料電池の固体電解質膜といったエネルギー材料への応用の研究が増えてきました。 ただ私も最初からMOFを扱った研究をしていたわけではありません。MOFは有機物と金属イオンからなる金属錯体ですが、多数の有機配位子と金属イオンで構成される金属錯体分子だと非常に大きな容量を示すことが分かり、そこから二次電池の正極材料としてMOFに着目するようになりました。