One Hour Interview
独自の手法で創薬資源を開拓
菊地晴久
これまでとは骨格がまったく違う化合物
その方法はいつ頃開発されたのですか。
論文を発表したのは2014年です。
その方法自体は誰にでもできるものなのでしょうか。
発想はそれほど特別なものではありませんし、操作もやろうと思えばたぶん、誰でもできると思います。ただ、その検証にはコツが要ると思います。多様性拡大抽出物の場合、化合物は多数の物質が混合した状態で別の混合物に変化する反応なので、少し複雑なのです。元の混合物が別の混合物に変わったことを検証するのは、慣れていないとなかなかできないことだと思います。
この方法で実際に新しい化合物ができているのですか。
はい。今までとはまったく違う骨格の化合物がたくさん取れています。未発表のものも含めて200~300はあるでしょう。
その中に創薬資源として有望なものもあるのですか。
すぐに薬になるというわけではありませんが、製薬企業と共同研究しているものもいくつかあります。特許を取っているものも複数あります。免疫チェックポイント阻害剤などのような抗体医薬に似た作用を持つものを、抗体ではなく化合物で見出してもいます。この方法ですと、今までよく知られていた生薬などからも新しい化合物が取れる可能性があります。
先生のもう1つの研究テーマである未利用生物種のほうは、いかがですか。
こちらは多様性指向型合成とは考え方が違っていて、冒頭でもう新しい天然化合物は取り尽くしてしまったのではないかというお話がありましたが、いやいや探せばまだあるのではないか、という考え方です。ですから2つのテーマはある意味、相反しています。これまでは細菌とカビなどの微生物や生薬が主に研究対象とされてきましたが、それだけだと限界がある。だから今までとは全然違う生物に目を向けてみたら、実はまだ新しい化合物が取れるのではないかという発想です。実際、探してみるとまだ利用されていない生物は結構あることがわかってきました。私が以前から研究の対象としているものの1つに、細胞性粘菌があります。