ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

美しい構造の分子を追い求めて

役に立たなくてもいいから、構造的に美しい分子の合成を目指す。
そんな研究もありとされるのが、
アカデミックの世界の懐の深さだと、雨夜徹さんはいう。

雨夜 徹

名古屋市立大学
大学院理学研究科
教授

未知の分子を生み出す研究

2021年に名古屋市立大学に来られて研究室を立ち上げられましたが、どういうテーマの研究をされているのでしょうか。

S字型 p‐オリゴフェニル分子の模型。2本のS字鎖が互いに支え合い構造を保っている

 私の専門は有機化学で、この世にない新しい分子を設計・合成する「分子レベルのものづくり」に取り組んでいます。テーマは2つあり、1つはユニークで面白い構造のπ共役系分子の合成です。そしてもう1つは導電性高分子の合成で、こちらは企業と共同研究を行っています。

 私としては、今は面白い構造の分子を合成する研究をメインに考えています。これが最近でいちばん自慢の分子でして、スピロビフルオレンという分子を3つつなげた分子になります(そういいながら右上の分子構造模型を見せる)。

 有機化学の世界では、「構造美に機能が宿る」というケースがよくあります。例えばサッカーボールの形をしたフラーレンという分子は、ナノテク材料としてもてはやされていますが、もともとそういう機能を想定してつくられたのではなく、分子の形が面白いというところから研究が始まっています。つくれるようになって、その後調べてみたら、さまざまな機能が見つかった、という順番です。この分子も今は、直接的に社会への有用性がある機能は見つかっていませんが、後から何らかの機能が見つかる可能性はあります。

いつ頃からそのようなテーマで研究をされるようになったのですか。

 博士課程の学生時代から自由に研究させてもらっていたので、当時から分子設計の可能性を感じていました。ただ、大きなきっかけとなったのは、ポスドクとして2003年にアメリカのスクリプス研究所に留学したことでした。この研究所は世界最大の民間の非営利生物医学研究組織で、私はジュリアス・レベック先生の研究室に所属していました。

 レベック先生は、自己組織化分子カプセルの研究で著名な方です。外界から閉ざされたカプセルの中では、普通では考えられないような化学現象が起きることがあります。先生はそういうカプセルをいろいろ開発されていますが、そこで合成した分子はすぐに役に立つ実用的なものではありません。

 レベック先生はベンチャー企業も立ち上げていて、そちらでは社会に直接役立つものを研究開発されていましたが、スクリプス研究所での研究に関しては直接的な社会への有用性ということはあまり考えられていないように見受けられました。

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