One Hour Interview
美しい構造の分子を追い求めて
雨夜 徹
「遊び」のような研究の魅力
アメリカの研究所に留学した目的は何だったのでしょう。
大学院で博士号を取った後はアカデミアで働くことを決めていましたが、その前に有機化学に関する自分の力が海外でどれくらい通用するかを知りたかったんです。単純に海外への憧れもありましたが。
それまでは何かの役に立つものを開発しようとされていたのですか。
はい。学生時代のメインテーマは、グルコースがつながった糖鎖の有機合成によるライブラリー構築に関する研究でした。これが稲の「いもち病」に効く、環境にとてもやさしい農薬になるのではないかとの期待があり、毎日取り組んでいたのです。
そういう考え方が、レベック先生との出会いで変わったのですね。
はい。レベック先生から「アキラルな内部空間を持つカプセルの外側にキラルな側鎖を取り付けたらアキラルなゲストは非対称化されるはずだから、実験で証明してみろ」という課題を与えられたので、私はステロイドというキラル分子を使った実験をして非対称化することを実証して、論文を書きました。するとその論文が『Journal of the American Chemical Society(米国化学会誌)』に掲載されたんです。
実験で合成した分子は実用性のないものでしたし、証明した内容もすぐに何かの役に立つようなものではありません。しかし、そんな論文が世界最高峰のジャーナルで評価されたことに、アカデミックの世界の懐の深さを感じました。また、このように分子を合成して「遊ぶ」かのような研究を、心から楽しんでいる自分に気づいたのです。