One Hour Interview
微生物の「会話」をひもといてメタンを生成
前田憲成
微生物の複雑系の研究へ
言葉の分子というのは、化学物質のようなものですか。
そうです。化学物質が言葉のような働きを担い、言葉の分子が多いとざわざわするような感じになり、それが引き金になって一気に活動が活発化する、それがクォーラムセンシングというわけです。
もちろん微生物に知恵があるわけではないですよね。
そうですね。言葉を使うといっても、化学物質を出し、それに反応するということです。酵素や毒素をつくるときに、クォーラムセンシングを働かせて、周りに仲間がたくさんいるかどうかを確認します。そうした機構がわかってきたので、研究の流れは次の段階に移ってきました。例えば、病気の原因になるようなものがクォーラムセンシングによってつくり出されるのなら、クォーラムセンシングを阻害すればいい。今はそういう方向に研究が進んでいます。
クォーラムセンシングによって毒素が出ている例としてはどんなことがありますか。
例えば歯周病ですね。菌が出すジンジパインという酵素が原因になっていることがあります。
クォーラムセンシングを阻害すれば歯周病の進行を防げるということですか。
そのとおりです。でも、阻害しようとすると微生物たちが抵抗しようとすることもわかってきました。
ただ、これまでの研究は基本的に1つの菌でどういうことが起きるのか、1つの菌の特性を解明することで現象を解析したものばかりでした。しかし私が2018年に松籟財団の助成をいただいた研究は、いろいろな菌がいる状態での現象を見たものです。これを複合微生物系と呼んでいます。具体的にいうと、下水汚泥の嫌気消化が研究テーマの一つです。下水汚泥は微生物の塊のようなもので、その中にはいろいろな微生物がいるので、酸素を含まない嫌気的な環境に置きます。すると下水汚泥の加水分解が起き、たんぱく質や脂質などが低分子化されてアミノ酸や糖が取れるようになります。それを酸生成していくと、最終的にはメタンがつくられます。
そうした反応には酸生成する微生物、メタンをつくる微生物などいろいろな微生物が関わっています。こうした複雑系の現象とクォーラムセンシングとの関わりを解明しようとした研究はこれまでありませんでした。