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次代への羅針盤

次代への羅針盤

今こそ100年先を見据えた教育ビジョンの真剣な議論を!

村上正紀

基礎研究への注力が米国を科学技術大国にした

 1900年代の初め、米国では基礎研究に対する関心が低く、新しい技術の大半を欧州からの輸入に頼っていました。そのため欧州から「技術のただ乗り」と非難され、欧米間で技術摩擦、特許紛争が生じていたほどです。ノーベル賞の受賞者数を基礎科学・技術のパラメーターとすれば、1900年代の初めの30年間、米国の受賞者はわずか4~5人しかいませんでした。

 ところがそうした中で、ロックフェラーやカーネギーといった大財閥は、基礎研究の重要性を理解していました。ロックフェラー医学研究所、ワシントン・カーネギー協会、ベル研究所などが次々に設立されたのは、この頃のことです。そうした地道な取り組みが、第2次世界大戦後の1950年代に一気に花開いたのです。実際、これ以降、米国のノーベル賞受賞者は急増しています。

 この間、大きな国家プロジェクトも登場しました。

 最初の大型国家プロジェクトであった分子エレクトロニクス計画はもともと軍事が目的でしたが、超軽量・高信頼・高精度の電子制御技術を必要とし、現代の最重要技術のひとつであるIC技術を生み出しました。ソ連に対抗して推進された宇宙開発技術もその後、大きく発展したことは言うまでもありません。

 米国のこうした取り組みで特徴的なのは、目的がはっきりしていたということです。米国は何をするにも目的とビジョンが明確に示され、明確なビジョンを示す人材も豊富でした。そして明確なビジョンを持つ国家プロジェクトには大胆な予算がつけられました。

 米国ではこのような人材を育成する風土・政策に適した教育を長年、行ってきました。米国は多様性に富んだ社会です。そのような環境で生き抜くには、一人ひとりが強い主体性を持つ必要があります。だから米国では子どもの頃から主体性を育む教育をしていますし、小学校でも飛び級があります。ビジネス社会でも、個々人を評価するのはあくまでも実績と能力が基準であり、年齢や性別は関係ありません。自分が進むべきレールは、自分で敷き、自分の責任で決定する。社会の序列は実力で決定するということが、子どもの頃から徹底して教えられるのです。だから米国の学生に将来の理想像を尋ねると、「主体性の強いユニークな人間」と異口同音に答えます。

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