次代への羅針盤
今こそ100年先を見据えた教育ビジョンの真剣な議論を!
村上正紀
自分で育とうという気迫がなければ大樹にはなれない
一方、教育を受ける側の若い人たちに対しては、「育つ気迫」を持つことを切に願います。教育の「教」は受動的な色彩が強くありますが、「育」には能動的な意味のあることを忘れてはいけません。とりわけ高等教育になれば、自分で育とうという気迫がないと大樹にはなれません。日本と米国の大学の若手研究者の育成の大きな違いは、教育環境だけでなく、自分で育とうとする意欲の強弱の違いが大きいと私は見ています。
最後にもうひとつ、若い方たちに言いたいのは、幅広い歴史観に基づき、自分の専門分野の基礎を徹底して学んでいただきたいということです。私自身、研究をしていて困難に直面したときなどは、必ず基礎に戻って考えるようにしていました。基礎を知らないと、見えないことや見落としてしまうことがたくさんあるからです。そして基礎を徹底して学んでおけば、研究の目標もぶれることがありません。基礎がしっかり身についていれば、勘もよく働きます。自然科学の学問に、偶然というようなことはあり得ません。偶然の発見のように思えても、実際はそこに至るまで徹底して基礎を学び、実験を繰り返し、考え抜いてきたという経過が必ずあるのです。
物事を考える際にはノイズを遮断して集中する必要があります。まず孤独になり、ひとりで考え抜くことが大事です。そしてグローバル化の大波が打ち寄せる日本の将来を見据えて、「挑戦は前進、満足は後退」の精神を肝に銘じ、絶えず新しいことに挑戦し続けていくことを心掛けてください。挫折を恐れることはありません。簡単に答えの出る問題など、いくつ解いても面白くないということは、ビジネスや学問に真剣に携わっている人なら誰もが分かっていることだと思います。
「挑戦は前進、満足は後退」絶えず新しいことに挑戦し続けていく。
村上正紀[むらかみ・まさのり] 学校法人立命館 副総長/教授 工学博士 1971年、京都大学大学院工学研究科冶金学専攻博士課程修了。専門は金属薄膜材料学。カリフォルニア大学ロサンゼルス校研究員、IBM T.J.ワトソン中央研究所研究員、同マネジャーを経て、1990年、京都大学大学院工学研究科材料工学専攻教授に就任。2007年から現職。2009年、紫綬褒章受章。2011年、日本金属学会賞受賞。公益財団法人松籟科学技術振興財団評議員。
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