ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

若手人材の育成こそ日本再興への道

新海征治

逆境のときこそ力が問われる

 これとは別に、研究者にとって大切な3つの要素もあります。1つは、極限にまで追い詰められることです。私は米国留学から九大に帰り、さあやるぞと意気込んでいたとき、長崎大学に移ることになりました。行ってみると新設の学科で、人も設備も予算も不足していました。この環境でどうすれば研究者として生き残れるかを必死で考えました。出てきた答えは、この環境下でもできて誰も気がついていないテーマを探せばいいということでした。そして出てきたのが分子機械のアイデアでした。分子機械の研究は、大した設備も人手も予算も必要とせずにできました。逆境に立たされると、人間は必死で考えるものです。そしてそのときこそ本当の力が問われます。

 偶然の発見も大事です。これは私自身、何度か経験しています。フラーレンのC60とC70を簡単に1発で分ける方法を開発したのも偶然の発見からでした。歴史的に見ればシスプラチンもペニシリンも偶然の発見と言えるものです。もちろん偶然の女神は誰にでも訪れるものではありません。1つのテーマを徹底的に考え抜いた人にだけ、女神はほほ笑むのです。

 3つ目は、真理の探究です。オリジナリティと言ってもいいでしょう。若いときはほかの人の仕事が優れているように見えるので、つい自分もやってみようと考えがちです。私もそうでした。しかし、人まねはどこまでいっても人まねで、評価されません。オリジナルの仕事で成果を出してこそ「あれは新海の仕事だ」と評価されるようになるのです。

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