次代への羅針盤
やりたいことをやればいい
国家として科学技術の分野で日本は中国に勝てなくなると厳しい見方をする細野秀雄氏。だがその一方で「今の若い人は優秀で、大変な時代だがチャンスも多い」と指摘する。鉄系超伝導体の開発や高性能透明薄膜トランジスタIGZOの開発など、研究者として何本ものホームランを打ってきた細野氏が、次代を担う研究者たちに活を入れる。
Hideo Hosono
細野秀雄
東京工業大学
元素戦略研究センター長&科学技術創成研究院教授
大きな成果には運も必要
鉄系超伝導体を発見して論文で報告したのは2008年のことでした。それまでは、鉄のように大きな磁気モーメントを持つ元素は磁性を持ってしまうので、超伝導の発現には適していないというのがこの分野での常識でしたから、この論文は大きな反響を呼びました。そのためこのときの論文は世界中の研究者に引用され、年間の引用件数が世界一になって2013年にはトムソン・ロイターのトムソン・ロイター引用栄誉賞を受賞しました。
その他に私は高性能透明薄膜トランジスタ(IGZO)や低温低圧のアンモニア合成法なども開発しました。私自身はホームランと言ったことも考えたこともありませんが、「細野はよくホームランを打つ」と言われることはあります。なぜ、そんなに打てるのか、と聞かれることもあります。
その質問に対してはいつも「運がよかった」と答えています。もちろん運だけとは言いませんが、大きな成果には運も絶対に必要です。土台がなければ運も生かすことができませんから、若いうちにしっかり土台をつくっておく。それは当たり前のことです。
たとえばIGZOですが、私の中では、あれは着想がよかったと思いますが、科学的には大した発明ではありません。超伝導に比べれば難しさのレベルが違います。ただIGZOにはディスプレイという大きなニーズがありました。だからその後、大きな産業応用につながり、話題になったのです。そこがまさに運なのです。