次代への羅針盤
やりたいことをやればいい
細野秀雄
学問の体系を変えた超伝導研究
学問の体系を変えるような研究が、本当にインパクトのある研究です。そういう意味で2003年のアンモニア合成法の開発も、画期的な研究というほどのものではありません。アンモニアの合成法は1913年に確立されたハーバー・ボッシュ法がよく知られています。この方法だと、高温高圧の反応条件と大規模な設備が必要です。それに対して私たちが開発した合成法は、低温低圧で、オンサイトの小規模アンモニア生産に道を開くものと言えます。ただし、ハーバー・ボッシュ法の枠組みを超えるものではありません。もちろんこの合成法の開発に明確な意義はありますが、大量につくるのならやはりハーバー・ボッシュ法の方が優れている。私自身はハーバー・ボッシュ法を超えたとは一度も言ったことがありません。
鉄系超伝導体の発明は、インパクトのあるものでした。しかも超伝導は学問的に非常に難しい分野です。高温超伝導体を創る(見つける)ことは特に難しい。
半導体の量子力学では、固体の中を電子がお互い無関係に動いているというのが大前提です。ところが超伝導では、瞬間的に電子がペアをつくらないといけない。つまり、大前提としていた仮定が成立しないのです。だから世界中の俊英が取り組んでも、未だに高温超伝導体を設計する信頼できる理論はありません。その結果、何十年に1回くらいしか画期的な物質が出てこない。それくらい難しいのです。それでいて研究の競争の激しさも他の分野とは全然違います。
実は鉄系超伝導体を発見したときも、最初はそれほどすごいことをしたという意識はありませんでした。しかし、世の中の方が先に動き出しました。すさまじい国際競争になり、私たちは寝る暇もないような状況に陥りました。1日先に論文を発表されたら負ける。あの激烈な競争のすごさは、経験しないと分からないでしょう。