次代への羅針盤
化学に効率を求めてはいけない
相田卓三
研究者の層の厚さが必要
私は大分県の田舎で生まれ育ち、子どもの頃は虫とりとか魚とりばかりして、勉強なんてほとんどしませんでした。遊ぶときは年上の子どもも一緒だったので、今日はどういうルールで遊ぶのかとか、毎日交渉をしていたものです。
今の子どもはそういう経験をしていないのではないでしょうか。答えは1つだけという学校の勉強ばかりして、常識を守ることばかり植え込まれる教育を変えないことには、みんなが同じ方向を向いてしまうような日本の傾向は、これからも変わることがないでしょう。
日本の科学技術が衰退していることは、ずいぶん前から言われています。トップ1%論文などのデータを見ても、それははっきりしています。ただ、これは難しい問題で、そこにはいろいろな要因があると思います。一つ言えるのは、層の厚さが大事だということです。中国の科学技術は今、すごく伸びています。もちろんそこは玉石混交で非常に優れた論文もあれば、レベルの低い論文もあります。ただ、研究者の層が非常に厚いことは事実です。
かつて日本のサッカー選手が欧州でプレーすることなど、ほとんど考えられませんでした。しかしJリーグができ、J1、J2などができてどんどん層が厚くなってきた今、欧州のリーグでプレーする日本人選手はもうすっかり珍しくなくなりました。
サイエンスの世界ではその逆の現象が進んでいます。お金や人を減らすと、極端にその影響が出てくるのです。人口が減り、博士課程に進学する学生も減っている今の日本で層を厚くするのは難しいかもしれませんが、例えば私たちのような研究者が研究の面白さを若い人たちに伝えていくことも大事だと思います。