次代への羅針盤
化学に効率を求めてはいけない
相田卓三
脇道、寄り道の効用
小学校の高学年から本格的な受験勉強が始まる日本の学校教育では、間違えないための戦略、方法論が教え込まれます。今は教員の中にもそういう教育を受けてきた人が増えて、マジョリティを形成しています。けれども研究というものは、間違うことのほうが多いのです。間違いを怖がっていたらいい研究などできません。だから若いうちに失敗すること、間違うことこそ大事なのです。
失敗して脇道に逸れたって構いません。寄り道とか脇道に行くことで新しいものを発見したり気がついたりすることはよくあります。効率が大事な組織もあるでしょうが、新しいものをゼロから見つけることが要求されるところでは非効率の連続で、効率などありえません。化学はその最たるものでしょう。
自分が信じたことをとことん追究する。その結果としてすぐに何かの役に立つものができることもあるでしょう。その一方で10年後、20年後に役に立つことがわかったりすることもあります。だから今の結果に一喜一憂せず、自分がやりたいことを決めたら、その研究に邁進する。それが本物の研究者だと私は思っています。
その時々の結果に一喜一憂せず、自分の道に邁進する。それが本物の研究者です。
相田卓三[あいだ・たくぞう] 東京大学大学院工学系研究科 教授 1956年、大分県生まれ。横浜国立大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。同助手・助教授を経て1996年より現職。2013年から理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長(現職)。学生のときは登山が趣味で、北アルプスには頻繁に登っていた。今は電子サックスを演奏するのが楽しみ。今でも深夜2時ごろまで起きていることは普通にあり、「疲れたときにサックスをガーンと演奏すると気分がすっきりする」と言う。
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